長期インターンで感じたこと
執筆日: 26.02.03
昨年9月から12月にかけて、期間としては3か月、日数としては39日の長期インターンに参加した。 このインターンの目的は、学位プログラムの単位を取得すること、自身の今後のキャリアを考える上で半導体装置メーカーでの実務経験を積みたかったこと、そして企業体における研究活動がどのように行われているかを自分の目で確かめたかったことなどである。
業務内容は具体的に述べることは出来ないが、任されたことは現在検討中のある課題に対して、その研究基盤を整え、その検討課題に対して一定の結論を出すことであった。 初日に10枚くらいのスライドでどういう課題か説明され、その後は基本お任せで、たまにメンターの方とディスカッションしながら方向性を修正していく形で進められた。 正直この手の1から作る系のクリエイティブな課題は、自分が最も好きな類のタスクではあった。 学部生時代から長きに渡ってそういったことばかりを行ってきたことがその理由である。
このインターンで最も辛かったことは、自分を導いてくれる経験豊富なメンターがいないことでも、アクセスできる社内リソースが極端に制限されていることでもなく、自分の研究との両立であった。 3か月という期間は、大学院生にとっては非常に長い。 3か月もあれば、自分の研究テーマの主要なタスクを1つは完了できる。 そのため、インターン中に自分の研究を止めるわけにはいかず、インターンの業務時間外に研究を進める必要があった。 そういうこともあり、このインターンでの1つの個人的な目標は、残業をしないということであった(もちろん時給が発生しないという理由もあった)。
そういうわけで、8:50 から 17:20 までインターンの業務を行い、そこから深夜までは自分の研究を進めるという生活が続いた。 平日分は休日で取り戻す必要があると感じ、土日も研究を進めた。 このような生活は、体力的にも精神的にも非常に厳しかったし、実際インターン業務後に大学のエレベーターでばったりあった同じ博士課程の友人に、顔色が悪すぎて声をかけることを躊躇されたほどだった。 特にインターン終盤は目を閉じれば10秒以内に寝れるくらいには疲労しており、最終盤は自分が起きているのか寝ているのかわからないような感覚も味わった。
そして非常に残念なことに、このインターン期間中に自分の研究が大きく進展することはなかった。 実際に研究もしていたが、そのほとんどが自分の研究のコアな部分ではなく、自分も少し関わっている別のプロジェクトを少しずつ進めることしか出来なかった。 なぜこうなってしまったのかを振り返ると、激しいクリエイティビティを求められるタスクを両立できるようなキャパシティを、自分は持っていなかったのではないかと思う。 インターン前は、1日14 ~ 16時間労働が続いたとしても、そもそも自分の研究しかしていないときはそういう生活を送っていたわけだし、その時間を分け合うことは可能だと高を括っていた。 しかし実際には、インターン業務後には何か創造的なタスクをこなすだけの余裕はなくなっており、流れ作業的なルーチンワークをするだけの体力しか残っていなかった。
結局、睡眠後に疲労がリセットされたフレッシュな脳でインターン業務を行い、養分を吸い取られた脳で自分の研究を進めていたがために、インターンでは良いパフォーマンスを出せたものの、自分の研究では良いパフォーマンスを出せなかったのだろう。 そして自分の研究で良いパフォーマンスが出せないことは、自分にとって最大のストレスであって、終盤は結構精神的にも苦しい状態になってしまった。 この経験から学んだことは、クリエイティブなタスクをプレーヤーレベルで複数同時にこなすこと(マネージャーレベルだと別かもしれない)は、少なくとも自分には難しいということである。 しかしながら自分の研究生活でもそのような状態になっていることは日常茶飯事で、こういった状態は積極的に改善すべきだし、そういった状態が発生するような環境構造も是正する必要があると感じた。 つまり、単なるタスクの優先順位付けや責任分散だけでなく、それがどれだけクリエイティブなタスク、より一般には脳内リソースを大量に消費するタスクであるかも加味した上で、タスクの割り振り作業が行う必要があると感じた。
逆にそういった中でもインターンで一定の結果が出せた要因を探ってみたい。 インターンでも研究活動でも、私に対してほとんど指示がないことは変わりがなく、そういう意味で外圧の体感は同程度であった。 1つ目の違いは、前述したように睡眠後の老廃物が除去されたフレッシュな脳であるか否かであろう。 ただし、インターンをしていない曜日もあったため、これだけが要因とは思えない。 そしてもう1つの要因として考えられるのは、インターン業務は自分の専門外のタスクであったことである。 この専門外であることが私の好奇心を刺激してしまったことは間違いない。 正直残業はほとんどしていなかったが(特に前半はほぼゼロ)、それでも移動中や他の時間に現在自分が抱えている謎をずっと考えてしまっていた。 私はインターン中、最も離席する社員の一人であったが、研究職というのは机に向き合っている時間だけが研究時間ではないことを改めて認識した。 性質上の問題なのかよくわからないが、業務時間外であっても勝手に気になったことに対して思考してしまい、ああだこうだと頭の中でシミュレーションしてしまっていた。 これにかなりのリソースが奪われてしまっていたに違いない。
そしてもう1つの要因としては、毎日日報を書いていたことが挙げられるだろう。 これはインターン開始前に意図していたことではなかったが、インターンが始まり色々と自学自習を進めていく中で、自分が考えたことややったことをメモして、次にやることを整理するために日報を書き始めた。 この必要性を感じた理由は主に2つで、1つは数年前から自分の忘却スキルがとんでもなく高まってしまったことを実感していたことと、もう1つはメンターの方を含め先輩社員は多忙で、隙間時間に自分の進捗を確認してもらってコメントをもらう非同期的なコミュニケーションの方が効率が良いと考えたからである(それとは別に、この日報自体がインターン後の引き継ぎ資料にもなりえるという副次的な利点もあった)。 実際これは非常に有効であった。 そもそもなぜ私の忘却スキルが病的なほどに高まってしまったかというと、やっているタスクとその範囲がかなり広くなってしまい、自分の脳内メモリ容量がほぼ一定にも関わらず、個々のタスクをこなすための必要メモリ容量が増大してしまったからだと、勝手に解釈している。 つまり、何かタスクするたびに他のタスクのことを忘れてしまう、という悲しい症状に見舞われていた(老化なのかタスクの高度化なのかは不明)。 しかしこれはインターンと自分の研究を並行して行う上では特に致命的で、先週やった内容を自分自身が覚えていないというリスクを孕んでいた。 覚えていない = やった時間を無駄にしてしまう、ということなので、これは避けるためにかなり詳細な日報を書き始めたわけである。 そして実際に新しい週になって赤子のように真っ新な頭になった状態の私は、先週の素晴らしい自分が書いた日報をまず読み込んで、必要な情報を脳内メモリにリロードすることから始めていた。 思い出すということを主眼に置いていたため、日報の構成も「今日やること」、「今日やることの中でやったことの各項目」、「感じたこと」、「明日やること」の4つのセクションに分けていた(「感じたこと」は自分用というよりか、インターン自体を改善したいと思っている社員さん向けである)。 構造もテンプレ化し、内容も箇条書きにすることで、書くこと自体の負担を減らせていたのも、続けられた要因だった。 こういう過酷な日程を組んだことによって、自分に合った仕事術を見つけることが出来たのかなと、今になっては思う。
また、別の側面として、いわゆる大企業と呼ばれる場所で3か月を過ごすことによって体感できる、企業内に形成される人間社会についても学ぶことが出来た。 自分が実際にそこで見たのは1サンプルに過ぎないが、色んな人から聞いた話を複合的に考えると、どうもそれは1サンプルのみの事象ではないことは容易に想像できた。 詳しくは書かないが、自分にとってポジティブな面もネガティブな面も両面見れたことは貴重な経験だったと思う。 そして後者に関しては実際にそこで働く社員の方々も感じていることはこちらも感じ取れたし、その是正に向けてアクションしたいと思っている人も一定数いるのだろう。 それは個人の集まりとしての組織において、どの組織であっても避けては通れない課題だと改めて感じた。 だからこそ、組織内のマネジメントや組織の KPI を意識した行動というのは、汎用性の高いソフトスキルなのだなと再認識した。 実際に企業での研究では、大学での研究に比べ知財などがかなり厳密に管理されていて、そういった意味で閉塞感は感じたものの、一方では誰かが築き上げた知識を無駄にしないような仕組みが整備されていることも理解できた。 その点については、誰かの知識が全体の知識になる、という私の理想とする研究共同体と目指すところが似ているなと感じた。
総じて、このインターンは非常に過酷であったが、自分のキャパシティの限界を知る良い機会となった。 また、出来るだけその限界を押し広げるためにはどうすれば良いのか、という個人的な処世術を見つける良い機会にもなった。 細かい部分は文章に起こすことが叶わなかったが、今後の自分の研究活動にもポジティブな作用をもたらすと期待しているし、実際にそうなっている部分も既にある。 また、インターンが終わってみると自分が進めたものの後に何があるのかたまに気になることもあり、そういう意味で自分は研究することが好きだし、研究対象に好き嫌いがあまりないことも再認識できた。 最後に、このインターンを受け入れてくださった企業の方々全員と、同い年で仕事以外のことも色々と話し合ったメンター社員さん、研究の進捗が止まることを我慢して送り出してくださった指導教員に、心から感謝申し上げたい。