人間とロボットと pisat のこれから
執筆日: 2021.05.24
pisat の目標
pisat はロボットを作るためのフレームワークである.したがって,あらゆるロボットを作るためのソフトウェア基盤を構築することが pisat の目標である.
まあ,この目標の達成はあくまで夢のまた夢であり,実際にはCPU の処理能力だったりメモリの不足だったりがボトルネックになって,「あらゆるロボット」というわけにはいかないかもしれない.ただ,志しとしては上述のとおりでありたい.
フレームワークのアーキテクチャとしては,(これが最も難しいかもしれないが)クリアでかつ自然でありたいと思っている.そのためには,以下で議論する「ロボットとはなにか」という馬鹿げた問題1に真剣に取り組む必要がある.なぜならアーキテクチャをクリアにするためには,まず対象とする問題からクリアにしなければならないからである.
ロボットを定義したい
「あらゆるロボット」といったからには,ロボットというものがどういうものなのかを知っておかなくてはならない.つまり,ロボットを定義する必要がある.そして,その定義は具体的であればあるほど良く,コードに起こしやすければなお良い.
とりあえず Wikipedia を見てみると,ロボットとは
人の代わりに何等かの作業を自律的に行う装置、もしくは機械のこと
らしい.なるほど,微妙だ.だが,いくつかのヒントは得られる.上の定義では,ロボットという集合を以下の3つの項目によって定義している:
- 人の代わりに何らかの作業を行う(用途)
- 自律的に行う(性質)
- 装置・機械(親となる集合)
この3つの条件を満たす元の集合がロボット集合である,というのが Wikipedia での主張だが,フレームワークを考える上では,第1の条件と第3の条件は不要である.なぜなら,フレームワークが使い手の「用途」を限定することは不可能であるし,何らかの「装置」となるのは自明であるからだ.すなわち,フレームワーク開発者にとって最も関心があるのは,「自律的に行う」という性質だけなのである.この「自律性」について理解することが出来れば,ロボットフレームワークとして成立すると言えるだろう(たぶん).
人間の行動メカニズム
引き続きロボットについて考えていきたいが,そのためには「自律性」についての理解を深める必要があるというのが先ほどまでの議論であった.いきなり「自律性」を考えようとしてもよくわからないので,何か具体例が欲しいところだ.一般に「自律的だ」と言われているものの中で,最も身近なものは人間だろう(自律性がないと言われる人も大勢いるわけではあるが).ここで一つの仮説を考えてみる.すなわち,もし人間が「自律性」とやらを持っているのなら,人間の行動のメカニズムを知ることで「自律性」について理解できるのではないか,というものである.
私は脳科学の専門家ではないので専門的なことはよくわからないが,22年以上人間として過ごしてきて,人間についてのことはある程度理解しているつもりである(未知の方が多いことは言うまでもない).以下に,私が自分自身を観察する中で感じた人間の行動メカニズムについて述べていく.
人間は感覚器官を持っている.例えば大雑把に言って,目,耳,舌,鼻,皮膚などだ.これらの器官は外界から物理的または化学的な刺激を受けて,その信号がニューロンなる神経細胞を通じて脳に運ばれる.それが脳に運ばれることで,私たちは「感じる」ことが出来る.
また,人間は筋肉を収縮,弛緩することにより,関節によって区切られた目的の部位や内臓などを動かすことが出来る.この操作によって,人間は自身の状態を変化させることが出来る.
さらに,(これは忘れがちではあるが)人間は考えることが出来る.「考える」とは何かということは非常に難しいのだが,私は今のところ次のように考えている(これは養老孟司氏の影響を受けたものであり,これは全くの仮説である).すなわち,私たち人間の脳には一連の回路網が形成されており,上述の感覚器官などから得た現在のデータと過去のデータから,新たなデータや次の行動を生み出すことができる.この過程において,新たなデータを取得することを「考える」と呼ぶ(この場合,次の行動を生み出すことを俗に「運動」などと呼ぶのだろう).
最後に,人間は学習が出来るという点を忘れてはいけない.人間の脳は絶えず入力を自身の回路網に通し,その結果を取得し,それと新たなデータをまた入力として回路網に通し,といった処理を行っているのではないかという仮説を上で述べたが,この一連のサイクルには何らかの学習機構が備わっていると考えられる.その機構としては色々なモデルが考えられが,具体的にどういうものなのかはよくわからない.ただ,何らかの機構があるのは確かであろう(実際学習しているのだし).
ここまでの人間の行動メカニズムについての議論をまとめよう.
- 感覚器官や筋肉は脳と接続されている
- 感覚器官は外界からの刺激を脳に伝達する役割を持つ
- 筋肉は脳から発せられた信号をもとに,収縮,弛緩を行うことができる
- 脳には感覚器官からの信号や過去の記憶を入力として,新たなデータや行動を生み出すことが出来る回路網が備わっている(仮定)
- その回路網は入出力サイクルの仮定で学習し変化することが出来る
より深い議論をするべき点は多くあると思うが,ここではこれ以上は深掘りしないようにしておく.もし今後必要になれば,別の記事でその議論を行うことにしよう.
人間モデルに基づいたロボット
(私の主観的な)人間の行動メカニズムがまとまったところで,このモデルに基づいたロボットを考えてみたい.
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モノの再定義を行うことは基本的には馬鹿げた問題だと思う.定義は対象に一貫性を持たせるために行うのに,再定義を行うことで,人々の対象への認識がずれていくからである(そして認識のずれはしばしば論争を生む).ただ,そのデメリットを考慮した上でも得るものがあるならば,必要なのかなとは思う. ↩